
影響力には、法則がある
レシプロシティ
レシプロシティとは、文化や時代を超えた人間関係に関する社会通念です。「なにかを受け取ったら、お返ししなければならない」と感じるのは、この社会通念があるからです。またレシプロシティがあるので、人は他者のためになにかをすることができます。いつか見返りがあると期待するからです。その結果、私たちは他者と情報をやりとりし、労力や資金を貸し借りし、社会を築いてきたといえます。企業の組織やプロジェクトにも、このレシプロシティが働いています。そのためにメンバーは協力し合い、ともに目標を達成するチームを築くことができるのです。
<事例 : レシプロシティを活かすカレンシーの提供>
営業マネジャーのC氏は、複数の営業担当者から「新製品のプロモーションには無理がある、顧客はこのような方法では納得しない」と立て続けに聞かされました。営業担当者からの報告を聞いていると、C氏にはその原因が把握できてきました。ここ1,2ヶ月の間に、原材料のコストが高まり、顧客を取り巻くビジネスの環境は、急速に変化していました。この変化が、顧客の反応を悪くしているのだ、と考えたのです。C氏はこの顧客の変化について、マーケティング部長のE氏に伝えました。C氏の報告を注意深く聴いていたE氏は、どう対応したらよいか、C氏の意見を求めました。「ありがとう。私もデータを見て気になっていた。現場の反応を聞いて確信が持てたよ」そしてさっそくプロモーション戦略を調整し、新製品の導入に成功しました。
この一件を機会に、E氏はC氏の意見を求めるようになりました。気をよくしたC氏も、E氏の期待に応え、その後もC氏の情報は、マーケティング部で役立ちます。E氏はマーケティングコンサルタントや、知人の大学教授らを、C氏に紹介します。この人脈のおかげで、C氏は販売を拡げたばかりでなく、営業の仕事や部下の育成の幅を拡げられました。営業部長になるチャンスでは、E氏の後押しを得ることもできたのです。
いざというときに協力を得られるリーダーは、「この人にお返ししたい」と思われている人だ、と言っていいでしょう。逆に日頃から相手に対してなにもしていない人は、どんなに高度な専門知識があっても、相手の協力を得ることは難しいのです。私たちが意識していないところでも、レシプロシティは働いています。この人間関係の基本原則を理解し、この働きを意識して人間関係を築いてゆけば、私たちの仕事の幅が拡がり、キャリアを充実させられると言えるのです。
カレンシーの交換
レシプロシティが働くとはいっても、なにに対してもお返ししたくなるわけではありません。お返ししたくなるようななにかを受け取って初めて、返そうという気になるのです。
<事例 : 空振りに終わった夕食会>
CO2削減プロジェクトのリーダーF氏は、気乗りのしないメンバーにいらだっています。社内の各部門から集められたメンバーは、本業が忙しいなどと言い訳をして、毎回2,3名が欠席しています。会議での発言もだいたい決まったメンバーに偏ってきました。彼らの発言力が大きくなるにつれて、他のメンバーが黙ってしまうという悪循環です。ある日F氏は、ここでメンバーの結束を高めるには、一度みんなで食事をして、一杯やりながら腹を割って話そう、と思い立ちます。いくらかの援助金を幹部から獲得し、この夕食会の案内を出しました。しかし、残念ながらここでの出席者はさらに少なく、F氏のもくろみは空振りに終わりました。
努力しても報われないのは、レシプロシティが働いていない、と考えていいでしょう。つまりこちらから差し出すものは何でもよいわけではありません。相手が「受け取った」「ありがたい」と感じられるものである必要があります。どんなによいものを渡したか、ではありません。あくまでも相手が価値を感じなければならないのです。そして「助かりました、今度は私がお返しする順番です」と感じられるように、計画するのです。
ここで知らなければならないことは、最低でもふたつあります。ひとつは相手がなにに価値を感じるのか。F氏の失敗は「夕食会」に価値を感じるメンバーが少なかったことです。メンバーの心を動かすには、相手が価値を感じる働きかけが重要。そのためには、まず相手が価値を感じること、何を受け取ったら動くのかを知っている必要があります。
次いで、こちらで準備できるものは何かを知らなければなりません。お金があれば動くのか。そのためのお金を持っているのか。お金の代わりになるものは何か。まず信頼を得なければならないのではないか。そのためには何をするのがよいか。私たちは、自分で想像する以上のリソースをもっています。それに気付けなければ、いつまでたっても「お金がない」「権限がない」と言い訳を繰り返すことになるのです。
こうしてこちらのリソースが用意できたら、こちらが求める何かとの交換を求めます。この交換は、概ね同じぐらいの価値の交換となります。その様子はちょうど通貨で品物を求めるのと似ています。そこでこの交換を「カレンシーの交換」または「価値の交換」と呼びます。




